連れられるままに向かったその工房は、
市内を抜け、少し山に差し掛かったところにあった。
焼き物にはまったく詳しく無いのだが、磁器工房だ。
実家の仕事関係の工房らしく、一度連れてきたかったとのこと。
ご主人に工房の中を案内してもらった。
「HONDA」のエンブレム。
「ホンダ製なんですか?」と聞くと、
「HONDA?あ本当だ。気がつかなかった」だそうだ。(笑)
そして、窯。
これは大きなほうの窯。
一度焼くのにプロパンガスを7本使うとか。
小さなほうの窯。
なんとこの窯、ご主人の自作だそうだ。
構造的にも非常に効率良く出来ているらしく、
当時これを考え出したのは日本初だとか。
内側はレンガではなく、セラミックファイバーだそう。
火と熱のまわり方について、しばしレクチャーを受けた。
ご主人、かなりの知識人とお見受けした。
さて、この「先達」という名、裏の先達山から採れる石(?)を
使っていることに由来するらしい。
もともとはサラリーマンとして、ある企業の研究所に勤務していた。
40歳の時、お父様の仕事である鉱石採掘業を立て直そうと
退職してこの地に入ったが、折からの鉱山不況で再建を断念。
そこから採れる石に目をつけ、磁器工房を始めたとか。
最初はまったくの素人、轆轤(ろくろ)もまともに引けなかったらしい。
ある晩、夢を見たのだそうだ。
夢でひらめいたのは、1ミクロンの大きさである粘土の
分子の向きを揃えれば上手く形になるのではないかと言うこと。
その方法を試してみたら、見事に轆轤がひけたらしい。
後で知ったのだが、やり方そのものは轆轤の基本的な方法だったとか。
しかし、それを分子構造的な発想から導き出すのは普通じゃないと思う。
さすが研究者だっただけのことはある。
窯を自作してしまったり、熱の回り方に詳しいのもそれ故であるのだろう。
話は、夢での閃という脳科学から、アインシュタインの相対性理論や、
それを否定する理論であるダークマター理論まで尽きることが無い。
驚くほどの知識だが、話そのものは難しいどころか非常に面白い。
楽しき難しい話が出来るのは、そのお人柄もあるのだろう。
そんないっぷう変わった主人の先達窯工房はみちのくにある。
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